父はいつもロングヘアー

末っ子は、ふと、思う。

父はいつもロングヘアーだなぁと。


いつ頃からかな?長いのって。


末っ子の中に、父は、
いつもロングヘアーなのだった。


でも、そのことについて、

末っ子は、聞いちゃいけない気がしてくる。


末っ子は、深くてツヤがある、

シルクのように揺れる父の髪をじっと見つめる。


末っ子よりも、

髪質がよさそうと思いながらね。


末っ子の熱い視線を感じたからなのか、

父は、いつものようにやさしい笑顔で、
末っ子を見つめる。


どうしたの?と聞いてくるまなざしで。


けれど、末っ子は、なんでもないよ、と

答えるように、静かに視線を落とす。


そして、思い出そうとする。

それに、どこかで聞いたような気も、しなくもない。


父の若い頃は、平均の長さ?ってね。

うろ覚えだけれど。


うーん、となって、記憶の中をたどって、

末っ子は、探ってみる。


そして、ふと、光る何かを見つける。


末っ子は、あんまり話さない。

気持ちのことだったり、思っていることだったり。


隠すつもりもないみたいだけれど、

そうだなぁ。話せないのかもしれない。


色々と感じてしまうようで、

どんなことであっても、伝わってくるみたい。


変なことでなくても、いいことでも、

末っ子は、色々と感じてしまって、


考えを重ねるたびに、

言えなくなってしまうんだそう。


それに、思いのカタチは、

ほんとに、それぞれなのだから。


末っ子は、そう思っている節がある。


だから、聞けないとか、言えないことがあると

こうも考え込んでしまうみたい。


父がロングヘアーなのは、

たぶん、末っ子が、好んでいたから。


末っ子のことは、

父は、たぶん、よく知っている。


思いを話すことが、それほど、

できる子ではないことを。


そして、思いを話せないからこそ、

心で色々と考えてしまうほどに、

とってもやさしい子でもあることをね。


末っ子が、まだ、幼い時のこと。


めずらしく、父のロングヘアーに、

ひとみをきらきらさせていたそう。


父にしてみれば、末っ子が、

思っていることを笑みで見せることが、


すごくうれしくて、とっても

大きいできごとのようだったみたいで。


その時は、ほんとに、たまたま

父の髪が長かっただけなのだけれど。


そんなことがあってから、父は、

ずっとロングヘアーなのだと、


どこかで聞いていると、

ふと、記憶の跡を見つける。


そして、末っ子は、また、

父のロングヘアーを見つめる。


すると、待っていたかのように、

父は、いつものようにやさしい笑顔で、

末っ子を見つめてくる。


まるで、末っ子の考えていることが、

わかっているかのような、まなざしでね。


末っ子は、父の笑顔に、弱いところがある。

いや、たぶん、父に弱いだけかも。


末っ子は、末っ子に呆れたかのように、

小さいため息をつく。


いつになったら、末っ子は、

父ばなれができる日がくるのやらとね。


ファザーコンじゃないと

思っていたけれど、

もしかしたら、多少は、
あるのかもしれないなぁとね。

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